北海道 日高中部 コイカクシュサツナイ岳、ヤオロマップ岳、1839峰 2009年7月11-12日


 日高山脈中部は明瞭な登山道はなく踏跡程度の野性的な峰々が立ち並び、その最右翼がカムエク、つまりカムイエクウチカウシ山だろう。ただしここは300名山なのでそこそこ人は多いと思うが、ここを外れると入山者はぐっと減る。今回目指した1839峰(いっぱさんきゅうほう)はそんな中でも主稜線から僅かに外れた孤高の山で、その名前の独特さから言っても目立つ山といえよう。ガイドブックによるとコイカクシュサツナイ岳から往復するのが最短ルートのようで、ネットで調べるとなんと強行日帰りをした鉄人も存在した。しかし、こちらは長期計画で登っているのでそこで体力を使い果たすと後半を棒に振ることになるので、順当に山中1泊で考える(ちなみに通常は2泊のようだ。1泊はかなり強硬スケジュール)。できれば初日にヤオロマップ岳まで入れば水が得られるかもしれないのだが、もしそこで水が無かったら最悪だし、水を担ぎ上げるのを考えるとコイカク山頂付近で幕営が無難な線だろう。

 登山口は札内ダムから奥に入り、札内ヒュッテを過ぎたコイカク登山口となる。ここは先週偵察済みで問題なく車で入れるのは分かっていたので安心だ。雨が上がって好天の土曜日、車を走らせるとなんと札内ダムでゲートが閉まっているではないか! そりゃ話が違うぜ。このままゲートが開かないと1日丸つぶれとなってしまう。しかしこの天候だからまさか1日開かないとも思えず、パッキングしつつしばし様子見しているとAM8時頃に黄色回転灯をつけた開発局?の車がやってきて、ゲートを開けたと思ったら自分だけゲートの向こう側に入って閉めてしまった。しかしこれで先が読めた。たぶんこの先の道の状況を確認しに行き、落石等の問題が無ければ帰りがけにゲートをオープンするのだろう。案の定そのとおりで、下ってきた管理車両はゲートを開けて路側に固定してオープンとなった。出発が遅れたが、今日の予定はコイカクまでなので大きな問題は無い。

コイカクシュサツナイ岳登山口駐車場 駐車場終点の草に埋もれた登山口?
何となく踏跡あり コイカクシュサツナイ川に出た

 登山口の案内標識で左の細いダートに入り、両側から草木がはみ出した道を僅かに走るとすぐに終点の駐車場が登場、しかしど真ん中が水溜りで実質的な面積が小さく、車は7,8台がやっとだろう。まあ、入りきらなければ舗装道の路側に置けばいいだけだが。今日はまだゲートオープン直後なので駐車場は無人だった。すぐ後から1台車がやってきたが釣り人だった。こちらは沢歩きのために地下足袋を履き、大ザックを背負って林道終点に続く草に埋もれかけた踏跡を進む。林道入口のあの立派な登山口の標識とは打って変わってこれ以降は標識は皆無だった。

コイカクシュサツナイ川。水量、水深はずっとこんな感じ 途中で見かけたシマリス
ロボット雨量計 2連砂防ダムが見えてきた

 沢に下りても標識や目印は特に見当たらず、とにかく歩きやすいところを拾いつつ沢を遡上し始める。沢の水量は先日の額平川と大差なく、ほとんどの場所は膝丈程度なので、右岸か左岸の河原が消失して切り立った崖や藪に変貌するところで対岸の河原に渡渉するようにした。標識は無いもののピンクリボンは僅かに見られ、小さなケルンも点在しているのでよ〜く見ながら進めばこれらを繋げて歩けるかもしれないが、歩きやすいところを選んで歩いていれば、自動的にこれら目印があるルートを歩くことになるので、あまり気にせずにとにかく自分の歩きやすいところを進めばいいようだ。

ガイドブックの情報に従って左岸に出る 1段目ダム左岸を高巻き。古〜いロープあり
2段目ダム左岸を高巻き。踏跡薄い。暗くてブレている ダム上流に出る

 なだらかな川を遡上していくとでかい2連の砂防ダムが現れた。私が持っているガイドブックによるとここは左岸を高巻きするとのことだったのでそちらに向かったが、非常に薄い踏跡程度でかなり古びたフィックスロープが崩れた斜面に埋もれかけていた。ここでこの踏み跡ではほとんど人が入っていない雰囲気だ。藪がほとんど無いのは幸いだが、先が思いやられる光景だった。しかし、下山時に判明したのだが、この斜面崩壊が原因かどうか知らないが、今は右岸側に明瞭な道ができていたのだった。10数年前の古いガイドブックより現場の情報を注意したほうがいいという教訓だった。特に沢沿いの道は大水が出るとルートが変わるのはよくあることだ。

最初のゴルジュ 右岸に巻道入口あり
笹に覆われているが明瞭な巻道 河原に下る
2つ目のゴルジュは左岸を巻く 巻き終わって河原に出る

 再び穏やかな河原を渡渉を繰り返しながら遡上し、やがて川幅が狭まってゴルジュ状になった場所が登場、これもガイドブックに出ていて右岸を高巻きするとのことで右岸に目印を探すと無事発見、笹のなかに明瞭な踏跡が続いていた。いったん沢を渡って対岸に移ると次のゴルジュが登場、ここは左岸の踏跡で高巻きする。その後は平凡な沢が続き、適当に歩きやすい岸を拾って進んでいく。

歩きやすいところを適当に歩く 夏尾根が正面に見えた
夏尾根取り付きの2又 砂地には幕営跡

 やがて目の前に顕著な尾根が登場し、その直下でいかにも2又と呼ばれそうな沢の合流点が登場、しかも砂地のテント適地に焚き火跡まであり、ここが夏尾根取り付き点に間違いない。ここで地下足袋を脱いで木の後ろに隠し、登山靴に履き替える。そして水を4リットル補給した。予想される気温からして2日分の水でこれほど使うとも思えないが、もし不足したらろくでもない思いをすることになるので奮発だ。さすがにザックがずっしりと重くなったが、今年4月の丸山岳を考えればまだマシだろう。

夏尾根入口。目印がぶら下がっている 最初は笹が濃い
でも踏跡は明瞭 笹を掻き分けながら登る

 ガイドブックによるとこの先はしばらく笹のトンネルのようだが、目印を頼りに尾根に取り付くと、右に左に進路を振りつつ笹の中に明瞭な踏跡が続いているが、両側から笹が覆いかぶさってトンネル状態だ。今はまだ濡れているので両手で押し分けながら進んでいく。下部が一番笹がうるさいが、登っていくと徐々に背丈ほどになり、樹林が濃くなってくると逆に笹が減ってくる。道の濃さはエアリアマップの赤点線くらいだろうか、そこそこ入山者がいないとこのレベルの濃さは保てないだろう。

やっと笹が減ってくる 道の濃さはこんな感じ

 標高が上がって笹が減り、樹林帯で歩きやすくなるのはいいが水の重さが堪えてペースは上がらないが、今日はコイカクまでなので無理せずのんびりと登ってゆく。途中、石があって座るのにちょうどいい場所で休憩、既に標高差500m登ったのでもう少しで半分だ。天候はいいのだが風が強く、稜線に出てテントを張れないくらいの強風だったら・・・と心配になってくる。幕営場所候補のひとつは標高約1300m地点で、ここは稜線に出る前なので風の心配は無いだろうが翌日の行程が厳しくなる。

標高約1300mの平坦地 樹林の隙間から見上げる夏尾根上部
標高1500m付近で発見した幕営可能地 森林限界を超える

 標高1300mを少し切った肩にガイドブックの情報どおりいいテント場があったが、最悪ここまで引き返すことになるかもしれないがまだ頑張ることにする。以降はどこかテントを張れそうなスペースがないか探しながら登っていく。植生はダケカンバが多くなり、徐々にハイマツも出現するようになると尾根の傾斜が増してくる。とてもテントを張れそうな場所はありそうにないが、標高1500m付近で登山道の左側に棚のようになった僅かな平地を発見、どうにかゴアライトを張れそうな唯一の場所だった。でもここまで下ることなくコイカク山頂付近で風の弱い場所にテント場があることを祈るばかりだ。

夏尾根ノ頭が近づく 夏尾根を見下ろす
花その1 花その2

 なおも登っていくと徐々に森林限界の様相が濃くなり、ダケカンバも消えうせて展望のよい尾根歩きになって気持ちがいいのだが、まったくもってテントを張れる場所は無い。あ、展望だが標高1800m以上はガスの中に入ってしまい、たぶんここから見えるはずのカムエクは姿形がなく、十勝平野側のみ展望が得られた。相変わらず風が強く、テント場の心配が尽きない。

夏尾根ノ頭山頂 夏尾根ノ頭から見たコイカクシュサツナイ岳山頂
夏尾根ノ頭から見た1719m峰 夏尾根ノ頭南西直下のテント場
夏尾根ノ頭南東直下のテント場 左の場所にテントを張った

 高山植物の点在する痩せ尾根を登りきると待望のコイカク手前の夏尾根ノ頭に到着、おお、確かにここはテント適地で、山頂、山頂の南西直下、南東直下にテントが張れる。今日の風向きは西なので南東直下のテント場ならどうにか風が避けられそうで、そこに立つと確かに風は弱く問題ないことが確認できて一安心。明日歩くヤオロマップ方面の稜線はガスに覆われて見えなかった。たぶんここから1839峰も見えるのだろが残念・・・・。

 あとはやることが無いのでテントでお昼寝。たまに鈴を鳴らして熊に注意を促す。今日は間違いなく私一人で山頂幕営だ、熊が出てきてもおかしくはない。音や匂いで人間の存在に気づいてくれてこっちを避けてくれるかなぁ。天気予報と違って夕方になって雨粒がテントを叩くようになり、外に出していた登山靴を急いでテント内に入れる。暗くなる前に酒盛りを始め、明日の天気予報を聞きつつ寝た。予報によると気圧の谷が抜けて雲が多いながら晴れ間が出るとのことだが、下界ではそうでも山の上はどうだろうか。結局、雨は明け方まで断続的に続いた。

 北海道の朝は早い。テントの中も3時過ぎには明るくなり始めたが、ポツポツとテントを叩く雨音が止まないのでもう少々寝て、4時過ぎに行動を開始し、5時過ぎに出発。周囲は濃いガスに覆われて視界はなく、草もハイマツも雨でびしょ濡れなので上下新品のゴアに足元はロングスパッツの重装備で出発。ザックの中は飯と水、それに防寒着だ。さすがにヒグマの巣窟で無人のテントに飯を置いていくわけにはいかない。

雨が上がり、まずはコイカク山頂へ 山頂手前の北大ケルン
コイカク山頂付近から見た雲海の十勝平野方面。晴れたのは出発直後と帰りだけ

 道はこれまでより若干グレードは下がるが明瞭なままで迷うことは無さそうだが、ハイマツが両側からはみ出して足で避けながら進むこととなり、登りで逆目の区間は腕を使ってハイマツの枝を押し分けて進む必要があった。防水のはずの手袋は10分で浸水し、登山靴の中は30分で完全に水没状態となった。濡れたハイマツはいかんともしがたい。しかしここまで来て1839峰に登らないと後悔するのは確実なので、びしょ濡れのハイマツの枝を払いのけながら踏跡を進んでいく。コイカクシュサツナイ岳の正確な山頂は遭難碑があるすぐ南の高まりであったが、山頂標識はなかった。山頂は裸地となっており幕営可能だ。

最低鞍部付近から見たヤオロマップ方面 最低鞍部の裸地。幕営可能
ハイマツが派手にはみ出した踏跡 コイカク方向を振り返る

 ハイマツのはみ出しが本格的になるのはコイカク山頂から南に下り始めてからで、帰りの登り返しは標高差の体力消耗よりハイマツの掻き分けの方が苦しそうだ。下りは順目なのでいいのだが・・・。これだけ明瞭な踏跡があるのだから、たぶんずいぶん昔に一度ハイマツを刈り払ったことがあると思うのだが、その後の刈り払いは全くされていないと今の状態になるのではなかろうか。でも踏跡があるだけでもずいぶん違い、全くなかったら地獄のハイマツ藪漕ぎが延々と続き、いくらなんでも私の気力でもヤオロマップまでの約2.6kmも無理だろう。

1740m肩へと登る 1610m付近の裸地
ヤオロマップ右沢源流の雪渓 ヤオロマップ岳東のカール

 最低鞍部は狭いが裸地になっていて小さなテントなら可能だ。ゆるく登って下った標高1610m地点は小鞍部になっており、こちらはより大きな裸地があった。この鞍部近くの東側の谷には少し下ったところにまだ雪渓が残っており、ここに幕営すれば水を持ち上げなくても済んだようだ。といっても結構後退していたので無事下れるかの保証は無いが。ここの残雪を利用するなら6月いっぱいが安全圏内か。

 ここから再びハイマツの中の踏跡を上がっていくが、やっぱり逆目で苦労させられる。1740m肩に到着したところで、いつの間にか熊避けの鈴が片方消えうせているのを発見、確か鞍部ではあったと思うのでその間のどこかでハイマツに取られたらしい。こういう時のために鈴は2つ持っているのだが、もう片方の鈴がハイマツに奪われるまでそう時間はかからなかった。今度は音に気をつけながら歩いていたのですぐに気づき、付近の地面を捜索して無事発見した。この山域で鈴なし山行は自殺行為だ。できれば無くした鈴も帰りに回収したいが見つけることはできるだろうか。

1752m峰?の幕営跡 1752m峰から見たヤオロマップ岳方面

 もう鈴を無くすことは許されないので、鈴を手に持って歩くことにした。ハイマツを掻き分けるときにハイマツに絡め取られないよう注意する。早いところ立ったハイマツが終わって寝たハイマツになってくれることを祈りつつ高度を上げていく。視界が無いので山頂までの距離は不明で疲れる原因であるが、GPSの電源を入れれば正確な距離が分かるのだが面倒なので入れなかった。それでも山頂が平らでハイマツの枝を地面に敷き詰めてマット代わりに使ったような幕営跡がある明瞭なピークに到着し、山頂であってくれと願いつつGPSの電源を入れるとまだ1kmもあるではないか。1時間で1.5kmしか稼げないのだからハイマツの影響は大きかった。たぶんここは1752m峰だっただろう。その先のハイマツ中でビニール袋に入った黄色い物体を発見、中身は確認しなかったが落し物だろう。まあ、このハイマツだとやっぱ荷物を奪われるか。

途中、落し物を発見。ハイマツに奪われるのは私だけではない ヤオロマップ岳に向けて登る

 でもこの先はハイマツは薄くなりお花畑が多く歩きやすい区間だ。微妙なアップダウンが続き、ガスって先が見えないので精神的に疲れる。ウェストポーチに入れていた地形図は当の昔にびしょ濡れで、折り重なった部分は水で張り付いて手袋をしたままでは剥がせないので見る気も起きず、どれくらいのアップダウンがあるのかも分からないままだ。天気予報の晴れはどこにいってしまったのか・・・・。

ヤオロマップ岳手前の裸地 ヤオロマップ岳山頂。標識無し

 いくつかの小ピークを越えてテントが張れる広場が登場して山頂かと思ったが三角点は無く、その先でやっと三角点が登場、山頂標識は無いが間違いなくここがヤオロマップ岳山頂だ。ここも周囲に幕営可能な裸地があり、数張が展開可能だ。ここで風を避けつつ少しだけ休憩した。この先の1781m峰はかろうじて見えているが、どでかいはずの1839峰は全く見えない。

 さあ出発だ。この先も厳しそうなのでここでアタックザックに水と食料だけ入れて防寒着は置いていくことにした。気温が上がって手袋も不要になったので大丈夫だろうと考えたのだ。それに少しでもハイマツの抵抗が少ない方が良く、小さなアタックザックの方が有利だとの判断もあった。ただ、帰ってきたらザックの近くをヒグマがうろついていたら困るので、食料は全部持っていく。

ヤオロマップ岳南西の裸地 1781m峰へと進む
1781m峰から西に下る 1690m鞍部はお花畑

 ここから先は道は細くなるかと思いきや、今までと変わらぬ踏跡が続いていた。国境稜線は1781m峰から分岐すると勘違いしていたのでヤオロマップ岳から国境稜線へ下る踏跡は確認しなかったが、あるのを気づかなかったくらいなので少なくともコイカクまでの道よりずっと薄いのは間違いなかった。山頂から僅かに下ると左側に裸地があり、ここを下ると水が得られるそうだがガスっていてどれくらい下ればいいのか不明だし、今は水の量に余裕があるので水場は確認しに行かなかった。再びハイマツがうるさくなり、1781m峰で進路は右に曲がり、ハイマツの中の踏跡を下っていく。ここも明瞭で、少なくとも1839峰まではこのレベルの踏跡が続くはずなので一安心だ。ガイドブックによるとこの先のハイマツが厳しいと書かれていたが、どうもそれほどでも無さそうだ。

1839峰はガスの中 新しい切り口のハイマツ
尾根を巻く区間はハイマツから開放 ヒグマの糞。1781m峰〜1839峰間で数個目撃

 鞍部に下るとハイマツが切れてお花畑が広がり気持ちのいい場所だが、ここでいきなりヒグマの野太い糞が踏跡のど真ん中に落ちており、さすがにビビった。この先でさらに数個の糞があり、別のお花畑では熊が掘り返した跡や熊が歩いて踏みつけて倒れた草があったり、踏跡の上にも何かが土を引っかいた跡もあり、マジで引き返そうかと考えたほどだ。でも考えてみればこれまでの稜線も同じ程度のヒグマとの遭遇確率だろう、このまま行っても戻ってもリスクは同程度だろうと勇気を振り絞って進む。まるでナイフリッジや雪壁を登るかどうか悩むようで、本当に命の危険を感じた。これも北海道ならでは、特に人が少ない日高核心部の特徴だろう。それでもここ数カ月で切られたような真新しい切り口のハイマツがあったりして、小規模ながら個人的にルート整備をしてくれた人がいるようで心強い。

濡れたハイマツ、笹の下に踏跡あり 1770m峰へ登る

 地図も見ないしガスって先の様子も見えないしで、時折見るGPSだけが正確な情報を教えてくれるが、途中にあるピークの状況までは分からない。ピークに上がるたびにまだ山頂に到着しないかと期待するが大はずれ。雨にびっしょり濡れたハイマツや潅木の隙間を縫ってひたすら踏跡を辿っていく。右手の鈴を打ち鳴らすのも忘れない。あまりにヒグマの気配が濃く、携帯音楽プレーヤで音楽を聴いていられる精神状態ではなくなり、イヤフォンを収納して周囲の音に気を配って歩くのだが、風の音が大きくてヒグマが藪の中で蠢いても分かりそうにない。ヒグマの方にこっちの鈴の音に気づいてもらうしかなさそうだ。

ヒグマの掘り返し なおも濡れたハイマツが
山頂直下 待望の1839峰山頂。ガスで展望皆無・・・

 大きなピークを越えて、さらにその先にガスの中から高まりが出現、一部露岩が混じり、その岩をよじ登ったがその先に踏跡はなく藪で、左手を迂回して踏跡が付いていた。無雪期はいいが雪が付くと雪壁になりそうな場所だった。その先をなおも登ると傾斜が緩み、ハイマツが切れて花も見られるようになり山頂が近い雰囲気が出てきた。そして地面が露出した小さな広場が現れ、踏跡はここで終わっていた。赤テープがあるだけの山頂標識も何も無いそっけない場所だが、間違いなく1839峰山頂だろう。念のためGPSで確認すると誤差数mであった。いや〜、濡れたハイマツに苦労したが、やっと日高の中でも秘境といえる1839峰山頂に立った! 山頂にも踏跡にもゴミは見られず、人の気配よりヒグマの気配の方が濃かった。たぶん半径数kmには数頭の羆はいても人間は私だけだろう。夏尾根ノ頭からなんと4時間近くかかっていた。標高は大差ないので帰りもほぼ同じくらいの時間がかかるだろう。そこから下山なので今日は12時間行動だなぁ。あまりのんびりはしていられない。それにここまで時間がかかったのはハイマツのせいで、アップダウンの合計そのものは大したことはなく、体力の消耗は少なく疲労はさほど感じずに済んだ。ヒグマの存在が気になることもあって、僅かな休憩時間で出発した。

山頂直下の露岩上部 道はこんな感じで完全な藪漕ぎではない
帰りも1839峰は見えない ハイマツのトンネル

 帰りも登りでは逆目のハイマツに苦労させられた。ヒグマの糞を踏んづけないよう注意して進む。ガスが濃いので日中になってもハイマツは濡れたままで、帰りもたっぷりの水分を登山靴に注入された1781m峰に登りつけばどうにか核心部は通過したと言え一安心、ヤオロマップにデポしたザック周囲にヒグマは見当たらずこれまた一安心。腰を下ろして少々休憩。ガスが濃くて帰りも1839峰の姿を拝むことはできなかった。

ヤオロマップから下山開始 1740m肩

 さあ、次はコイカクまでのハイマツ帯だ。こちらの稜線もガスってはいるがハイマツの濡れ方が少なく朝方と比較してだいぶ乾いてきていた。ただし今までより風が強く、手袋が無いと手がかじかみそうだ。同じような高さの続く稜線を北上していると、注意してみると登山道には古い羆の糞が点在していた。やっぱりこっちにもいるようだが、新しそうな形を保った糞は無いので1839峰への稜線よりはヒグマの密度は低いらしい(本当かどうかは不明)。

コイカク山頂が姿を現す 最低鞍部も見えてきた
最低鞍部付近から見た1839峰。短時間だけ姿を見せた

 鞍部に向けて下り始めてからは、登りで失った鈴やICレコーダが無いか注意しながら歩く。さすが下りはハイマツがはみ出していてもすんなり進めて楽だ。「ヤオロの窓」付近でICレコーダを最後に使ったものと思ってその付近を集中的に捜索したが発見できず、諦めて先に進むと最低鞍部近くでまず鈴を発見、次いでICレコーダも発見できた。ラッキー! そして鞍部まで下るとガスの層から抜け出し、1839峰が雲から出たり引っ込んだりしていた。今なら山頂からの展望が得られただろうが、この時間にあそこでは今日中には下れないだろう。

コイカク向けて逆目のハイマツを漕ぐ 夏尾根ノ頭には登山者の姿が!
まだまだハイマツが続く 北大ケルン近くから見た夏尾根ノ頭

 鞍部からガスが晴れたのでコイカク山頂や夏尾根ノ頭が姿を現したが、夏尾根ノ頭には標識のような棒状の物が見えていた。あれ? あそこには標識は無かったはずだがと見ていると棒状の物体が動いている。なんと登山者の姿であった。最初は1名かと思ったら少なくとも2名以上、登り返して接近してくると5名くらいはいそうなパーティーだった。もしかしたら山頂で幕営して1839峰往復かと期待したが、そのうちに山頂に全員集合して徐々に姿を消していった。夏尾根に下っていったのだ。このパーティーはコイカクの日帰りが目的だったのか。ちょっと残念だが、これでヒグマの心配がかなり低くなって大助かりだ。追いつけるかどうか分からないが、少なくともあの大人数がいたのだから山頂のテント周囲にはヒグマはいないだろう。

夏尾根ノ頭から見たヤオロマップ岳、1839峰(クリックで拡大)
夏尾根ノ頭から見た日高北方(クリックで拡大)

 テントに戻ってテントを虫干ししながらメインザックをパッキングし直し、パーティ出発から遅れること1時間後にこっちも出発、ヤオロマップはギリギリ雲の下だが1839峰やカムエクは雲の中のままだった。カムエクに登るときは絶対に天気が良くて展望が得られる日にしたいなぁ。水は結局2リットル以上使わずにもったいないことをしてしまったが、体力トレーニングだったと考えることにしよう。もったいないが余った分は高山植物に補給してやった。

コイカク日帰りのパーティー(ジモティーらしい) 無事登山口に到着

 荷が軽くなったので夏尾根は快調に下っていく。上部は風が吹いて寒いくらいだったが標高が下がると樹林帯に突入して風も無くなり、気温が上がって汗が出てくる。もうちょっとで二又というところで先行していた10人?パーティーに追いついたが、思ったより早い時間だったなぁ。彼らから遅れること1時間の出発だったが、1時間下ったらその1時間のビハインドが帳消しだった。中高年パーティーなので私とは脚力に差があってもしょうがないだろう。

 2又に到着し、まずはザックを下して濡れタオルで体の汗をぬぐいさっぱりする。水浴びしていると追い越したパーティーの面々が次々とやってきて休憩に入った。こちらは地下足袋に履き替えてザックを背負い、ジャブジャブを交えて適当に下っていく。2連大型砂防ダムは目印を辿って右岸からしっかりした道で高巻きし、あとは平坦な沢を下っていく。ところがそんな平凡な沢のどこかでICレコーダを紛失、せっかくハイマツから探し出したのに・・・・・。たぶん沢の中ではなく渡渉が終わって岸に上がったところに落ちていると思う。拾った人、もし壊れていなかったら大事に使ってね。

 無事に駐車場に戻って荷物を車に突っ込むが、ここは虫が多くて着替えているとボコボコにされそうなのでゲートの駐車場に移動して着替えることに。着替えが終わった頃に2人の登山者が下ってきて浜松ナンバーと熊谷ナンバーの車に乗り込んだ。浜松ナンバーの男性に話を聞いたところ、カムエクに日帰りで向かったのだが、途中で踏跡が消えて激藪になってしまい諦めて戻ってきたとのこと。さて、私の目なら正しいルートを見出せるだろうか。それ以前に今後の天候が気になるところ。雨の日や雨上がり直後では増水して渡渉は危険だろうし、うまい具合に今度の休み中にチャンスが巡ってくるだろうか。結局、今年の7月の北海道は記録的な悪天で降水量は平年の2倍以上と山登りには大外れとなってしまい、沢登りを交えるカムエクにチャレンジするチャンスはこの後には来なかった。


 こうして濡れたハイマツと戯れた思い出深き1839峰山行が終わった。北海道最初の幕営がコレだから一生忘れることはないだろう。


所要時間(ICレコーダ紛失のため正確な時間は不明)

7/11
 8:59 駐車場−−9:03 コイカクシュサツナイ川−−9:22 砂防ダム−−9:38 最初のゴルジュ−−9:42 次のゴルジュ−−10:41 上の二又11:02−−12:58  約1300m平坦地−−14:06 夏尾根ノ頭(幕営)

7/12
 5:09 夏尾根ノ頭−−5:18 コイカクシュサツナイ岳−−6:00 1610m肩−−6:52 ヤオロマップ岳7:07−−7:29 1781m峰−−8:46 1839峰 9:00−−10:23 ヤオロマップ岳 10:33−−11:13  1610m肩−−11:30 1560m鞍部−−12:10 コイカクシュサツナイ岳−−12:19 夏尾根ノ頭 13:10−−14:15? 二又(休憩30分程度?)−−16:00 砂防ダム−−16:29 駐車場



2000m未満山行記録リストに戻る

 

ホームページトップに戻る